「生ける死仮面」(横溝正史)

その醜悪さにおいて横溝作品堂々ワースト1の短篇

「生ける死仮面」(横溝正史)
(「首」)角川文庫

巡査が異臭漂う画室を
覗いてみると、
そこには腐乱死体の傍らで
デスマスクを手に嗚咽する男が。
男は男色家で、
死体は愛した少年のものであり、
死因は病死であることが判明。
警察は死体損壊事件として扱うが、
金田一は…。

横溝正史には、この手のグロテスクな
作品がいくつかありますが、
本作品はその醜悪さにおいては
同じく屍姦を扱った
「眠れる花嫁」と並び、
堂々ワースト1に挙げられるべき
短篇です。

本作品の醜悪さ①
死体と戯れるおぞましさ

逮捕された男は数日間
屍体とともに過ごしていたのです。
書くのもおぞましいのですが、
いわゆる「屍姦」です。
腐敗し、崩れる肉体。
立ちこめる腐乱臭。
情景を想像しただけで
(想像したくないのですが)
そのおぞましさに
気分が悪くなります。

本作品の醜悪さ②
男色というおぞましさ

その死体は少年のものです。
おぞましさはさらに
強烈なものとなります。
性の多様化が一般化し、
特にLGBTという性的少数派が
認知された現代においては、
男色をおぞましいなどと表現すれば
差別となりますが、
作品発表の昭和28年段階では、
男色を扱った本作品の衝撃は
大きなものがあったに違いありません。

本作品の醜悪さ③
バラバラ死体のおぞましさ

その後、別の男の腐乱死体が、
首、腕、脚と次々に発見されます。
それも見つかりやすいように
犯人は意図的に遺棄していくのです。
おぞましさがさらに加わります。

と、これだけあげると
グロテスクな際物作品と思われますが、
決してそうではありません。
本格的な探偵小説です。

本作品の読みどころ①
出し抜かれない金田一

長編ものでは常に犯人に出し抜かれ、
第二、第三の殺人を
許してしまう金田一ですが、
本作品のように
すでに起きた殺人事件を
解決することにかけての推理は
パーフェクトです。
「デスマスクは死体となった人物の
ものとは限らない」という
金田一の問いかけが、
事件の見方を180度転換していきます。

本作品の読みどころ②
複雑な人間関係と遺産相続

横溝得意の複雑な血縁関係と
それにまつわる遺産相続が
本作品の背景として使われています。
事件の真相も真犯人の特定も
二転三転していきます。

エログロ要素満載の
シチュエーションの中で、
金田一が淡々と事件を解決していく姿は
痛快でもあり可笑しくもあります。
金田一ものの傑作短篇、
いかがでしょうか。

(2018.9.9)

PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA